iPhoneなど、スマホを充電器に差しっぱなしにする方は多いと思われます。
よく言われる「充電器に差しっぱなしは過充電となり危険」というのは間違いです。スマホ側で少し余裕を持って電圧制御しているので過充電にはならず、危険ではありません。
ただし、差しっぱなしだと電池は少し劣化しやすくなります。
この記事では、
・過充電とは?
・充電器に差しっぱなしの懸念とは
・電池を長持ちさせるには?
について電池技術者の私が解説したいと思います。
はじめに:電池の電圧について
リチウムイオン電池(リチウムポリマー電池)が動作する電圧は、
・充電側は4.2V
・放電側は2.5V
で電池技術者により電池設計されることが多いです。
一方、スマホやパソコンに組み込まれた電池は、例えば
・充電側は4.15V
・放電側は3.0V
と少し電圧範囲を絞って使用されることが多いです。
図で表すと下記のようなイメージになります。
過充電とは
過充電とは電池設計の上限4.2Vを超えて充電されることを言います。
つまり、何か不具合が発生したときに上限4.2Vを超えて、5Vや10Vと、電圧がどんどん上がって充電されると過充電となります。
図で表すと下記になります↓
過充電が危ない理由
上限4.2Vを超えて過充電されると、
・正極側の電位が高くなり、電池の中にある電解液が加速的に分解される
・負極表面上では正極からのリチウムを受け入れきれずに金属Liが析出される
これにより、電池が異常発熱します。過充電対策が電池内部(CIDなど)や外部回路で取られてない場合は、最悪、発火や爆発してしまいます。
これが過充電が危険と言われている理由です。
充電器に差しっぱなしにした場合は?
スマホを充電器に差しっぱなしにした場合、先ほどの例だと電圧は4.15Vでキープされます。
つまり、電池設計上限の4.2Vよりも低い電圧で、キープされるので危険ではないです。
充電器に差しっぱなしの懸念点
スマホを充電器に差しっぱなしにしても、過充電にならないので、危険ではありません。
しかし電池が少し劣化しやすくなります。
電池が劣化すると、
・スマホの電池がすぐなくなる
・負荷のかかる作業(ゲームなど)で発熱しやすい
という懸念点がでてきます。
なぜ電池が劣化するのか
一般的に電池は、
①温度が高い
②電圧が高い
③充放電を繰り返す
の3つで劣化が加速します。
スマホを充電器に差しっぱなしにすると4.15Vをキープするので、②電圧が高い状態で維持されるので、電池が少し劣化しやすくなります。
電池劣化のメカニズムを解説
電池の劣化は様々なメカニズムがありますが、簡単に言うと
・電解質の分解
・正極材料の劣化
の2つが主な理由となります。
電解質の分解
リチウムイオン電池には電解質(液体)、リチウムポリマー電池には電解質(ゲル状)が含まれています。これは、正極と負極とで、リチウムイオンをキャッチボールする際に必要になります。
しかし、電池電圧が高いと、正極電位が高いため電解質が酸化分解されやすく、また、負極電位は低いため電解質が還元分解されやすい状態となります。電解質が分解されると、CO2やメタンなどのガスが発生して電池が膨らんだり、リチウムイオンのキャッチボールがしにくくなったり(>液抵抗増加)、正極や負極表面に分解物が体積して抵抗層になったりします。また、電解質の分解時には、リチウムを消費するため、キャッチボールするリチウムイオンの量が減ってしまい、電池容量低下にもつながります。
正極材料の劣化
高容量なリチウムイオンを用いた電池には、ニッケルやコバルトやマンガンなどのレアメタルが、正極に使用されています。これらの正極材料は、電圧が高い状態で保存すると、正極の活物質(数十~数百um)の表面が割れたり、導電性が悪くなったりします。これにより、正極の抵抗が高くなったり、正極の活物質内で取り残される活性リチウムが増えるため、電池容量低下につながります。
電池を長持ちさせるには?
4つの方法があります。
①適正な温度(25~35℃)で充電する。急速充電は控える。
25℃~35℃が電池にやさしい温度です。
特に電池が劣化してくると、充電するだけで40℃~50℃くらいに上がってしまい、さらに電池の劣化が加速してしまいます。
また、急速充電は短時間で充電できて便利ですが、大電流で一気に充電するので電池温度が急激にあがります。正極や負極や電解液へのダメージも大きく顕著な劣化に繋がります。急ぎでない場合は、急速充電はできるだけ避けた方がよいです。
バッテリマネジメント工学という本にもありますが、「リチウムイオン電池は温度15℃上昇すると電池劣化が2倍」加速すると言われています。
スマホの部品のなかで、一番劣化が早く短寿命なのは電池ですので、できるだけ電池に温度がかからないようにするのがよいです。
②長時間ゲームなど負荷がかかる場合はスマホ冷却
ゲームや動画編集など、負荷がかかるものはスマホ自体がかなり熱くなります。
その場合は市販の冷却アイテムなどを活用して、電池が大きく劣化するのを防ぎましょう。
最近はペルチェ素子といった、電流を流すと冷たくなる素子をつかった冷却アイテムも人気です。ワイヤレス(給電タイプ)も発売されてより使いやすくなりました。
自然に冷やす場合は、熱伝導のよいシートをスマホに張り付けるのでも良いです。ペルチェよりも冷却効果は減りますが、あった方が良いです。
③できるだけ涼しい場所に置いておく
スマホを使わないときは、できるだけ涼しい場所に置いておくのが良いです。
温度が低いと、保管時に劣化しにくいです。電池だけを考えると、冷蔵庫や冷凍庫にいれておくと、劣化を非常に遅らせることができますが、結露等でスマホ自体が故障してしまうリスクがあるため、おすすめはしません。風通しが良く、涼しい場所に置くことを心がけましょう。
④電池は使い切らずに、こまめに充電する
リチウムイオン電池はこまめに充電するのがおすすめです。
ニカド電池やニッケル水素電池はメモリー効果(中途半端に充放電すると容量が減る)がありますが、リチウムイオン電池にはメモリー効果はありません。むしろ、高容量なリチウムイオン電池は、負極にSiを混合していることがあり、放電しきると、電池が劣化しやすくなることがあります。
最も電池が長持ちするのは、残量が30~70%で充電したり放電したりすることです。それはさすがに自分では制御できないので、こまめに充電するのが良いことになります。
まとめると
スマホは充電器に差しっぱなしだと
・過充電にはならない
・危なくはない
・少し電池が劣化しやすくなる
電池が劣化しやすくなるのは
・電圧が高い
・温度が高い
・充電、放電を繰り返す
の3つです。特に急速充電はすべてにおいて劣化しやすいので避けましょう
電池劣化のメカニズムは
・電解液の分解
・正極材料の劣化
が主な起因で引き起こされます。
電池を長持ちさせるには
・25~35℃で使う
・冷却アイテムを使う
・涼しいところに置いておく
・こまめに充電する
に気をつけましょう。
スマホの部品のなかで電池は一番寿命が短いので、電池が劣化しないように気を付けることは、結果的にスマホを長く使うことができると思います。
ご参考いただけたらと思います。