商品関連記事

携帯扇風機の事故 – 発火・爆発の危険リスクを解説します

*本サイトはアフィリエイト広告を利用しています。

最近、街中で良く見かける「携帯扇風機(ハンディファン/ポータブルファン)」ですが、発火事故や爆発などの危険性についてもご存じでしょうか?

なぜ、携帯扇風機において発火事故や爆発が起こるのかという理由ですが、それは、「携帯扇風機に、高容量なリチウムイオンを用いた電池が使われているため」です。

この記事では、電池設計開発を7年以上携わっている技術者の私が、携帯扇風機の危険性(発火/爆発)と安全な使い方について解説したいと思います。

発火事故や爆発事故について

携帯扇風機において、どのくらいの件数の発火や爆発事故が起きているかご存じでしょうか。

2021年6月25日の読売新聞の記事によると、2019年度から20年度までの2年間で発火事故が計37件、うち充電中の事故が14件、使用中の事故は6件、2人がやけどなどのケガを負ったとあります。

また、誤って家庭ごみで捨ててしまい、ごみ収集車で回収される際に発火する事例も複数確認されています(携帯扇風機はリチウムイオンを用いた電池が搭載されているので、家庭用ごみとして捨てるにはNGです。自治体ごとの指定された捨て方が必要です)

以上のように、携帯扇風機は、比較的安価で気軽に購入できる商品ですが、発火事故などが結構発生しており、正しい使い方や危険性を知っておくことは重要と言えます。

携帯扇風機のバッテリー容量について

携帯扇風機に使われているバッテリー容量はどのくらいかご存じでしょうか?

イメージするにあたり、皆さんが普段良く使われている「スマートフォン」や「モバイルバッテリー」と「携帯扇風機」とを比較したいと思います。

比較したものが下記になります。

バッテリー容量は、携帯扇風機(ハンドタイプ)は1000~3000mAhが多く、携帯扇風機(首掛けタイプ)は2000~4000mAhが多いです。

これより、モバイルバッテリーほどの大容量ではありませんが、スマートフォンと同程度であることが分かります。

スマートフォンにおいてはバッテリーの発火は、これまでに社会問題にもなっていますし、飛行機に乗る際のルールにも規定されています。つまり、携帯扇風機はスマートフォンと同程度の容量のリチウムイオンを用いた電池が使われており、発火や爆発などの危険性を持った商品と認識することが重要です。


※参考:mAh(ミリ・アンペア・アワー)とは?
1時間あたりに使用できる電気量のことを表しています。例えば、携帯扇風機3000mAhの商品で、「弱モードで必要な電流が100mA」とすれば30時間使用可能(3000÷100)、「強モードで必要な電流が500mA 」とすれば6時間使用可能(3000÷500)となります。単純に、mAhの数字が大きければ、バッテリー容量が大きいと思っていただけたらと思います。

どんなときに電池が発火するのか?

リチウムイオンを用いた電池は、基本的には燃えない設計にしていますが、ある条件では発火してしまいます。

発火に至る要因はいくつかありますが「最も危険なのは内部短絡」です。

市場における発火事故は内部短絡要因が多いです。それは、外部短絡より内部短絡のほうが発火防止対策が取りづらいからです。その理由について解説したいと思います。

まず、外部短絡と、内部短絡が、それぞれどんなものかについて、まとめたのが下記となります↓

外部短絡とは?

外部短絡とは、電池のプラスとマイナスが金属などで繋がり、電池の外部で短絡(ショート)することを言います。よく、テレビのサバイバル術などで、乾電池にガムの銀紙をプラスとマイナスに繋げて、火を起こしているのは、外部短絡させて、大電流を銀紙に流し、抵抗発熱させていることになります。

テレビなどのサバイバル術に使われる乾電池は、マンガン電池やアルカリ電池など、電池容量は小さく、出力も小さいですが、もしも、出力の大きいリチウムイオンを用いた電池で外部短絡を行った場合は、100Aを超える電流がすぐに流れて、電池の温度自体も数秒~数十秒で100℃を軽く超えるため、非常に危険です。

とはいえ、一般的なリチウムイオンを用いた電池は、外部短絡の対策を取っているものが多いです。

どんな対策かというと、電池自体には、外部短絡で電池の温度が130℃を超えてきたときに、セパレータがシャットダウン(スポンジみたいな穴がふさがる)ことで電流が流れなくする安全機能があります。また、電池によりますが、CID機能(電池の温度があがり電解質が分解されガス化して内部圧力が上がると、電流を流れなくする機能)や、PTC機能(電池に大電流が流れると回路を切断する機能)もあります。また、電池自体ではなく、商品側に大電流が流れた際に回路を切断する安全機能を備えている場合もあります。

このように、リチウムイオンを用いた電池は、外部短絡が発生した際に、電池をすぐに使えない(電流が流れない)ものにすることで、最悪事態となる発火や爆発になることを防ぐ安全機能を備えています。しかし、危険であることには変わりませんので、故意に外部短絡させることは絶対に避けた方が良いです。

内部短絡とは?

内部短絡とは、電池の内部で、短絡(ショート)が発生することを言います。

どんな時に内部短絡が発生するのかについて解説いたします。

まず、電池の内部は、通常は正極と負極が短絡(ショート)しないように、正極と負極の間に、絶縁物で作られたセパレータで分断されています。しかし、セパレータで分断ができずに、正極と負極とが低抵抗で接続されてしまうと、内部短絡が発生します。具体的には下記のような場合があります。

ひとつめは、電池の内部への金属異物混入による発火です。例えば、品質管理がいきわたっていない工場で作られた電池や電池材料において、微小な金属異物が、もし電池内部に混入していた場合に、ある日突然、セパレータを金属異物が貫通して内部ショートすることがあります。

次に、ユーザーの使い方もあります。例えば、電池の入った商品を落としたりした場合です。商品や電池が変形した際に、電池内部の金属物(電極タブや芯材)が露出し、セパレータを貫通し内部ショートするパターンです。

あとは、電池をとても暑い場所に放置していたり、電池が大きく劣化しても使い続けるパターンです。電池が大きく劣化してくると、Li金属の析出物(デンドライト)が負極表面上に成長していく場合があり、セパレータの穴をLi金属で埋めてしまい、正極と負極が短絡ショートしてしまいます。

なぜ、内部短絡が危ないのかというと、電池内部の不特定な箇所で、金属異物などによって短絡する現象のため、安全対策が取りづらいからです。金属異物は抵抗体であり、大電流が流れた際に異常発熱します。つまり、内部短絡で電池内部の金属異物に大電流が流れた場合、局所的に異常発熱し数百度に瞬間的に上昇してしまうため、異常発熱した金属異物付近の正極が熱分解し異常発熱してしまい、即座に、発火、爆発してしまうリスクに繋がります。

このため、内部短絡は、外部短絡での安全機能(セパレータシャットダウンなど)だけでは、完全に対策することが難しく、製造での異物管理など、間接的な対策も含めて考えざるおえないところがあり、絶対に燃えない電池にすることは困難なのが現状です。

なぜ充電中に発火しやすいのか?

読売新聞の掲載において、携帯扇風機の発火事故37件のうち、充電中が14件と、なぜ充電中に発火しやすいのかというところも、解説いたします。

理由はいくつかあります。

①正極の熱安定性が悪い状態のため
電池が発火するそもそもの起点は、正極が熱分解し異常発熱(自己発熱)して急激な温度上昇が連鎖的に起こり熱暴走することにあります。正極の熱分解による異常発熱は、フル充電で、さらに温度が高いと起こりやすくなります。つまり、充電中は、電池の温度が抵抗発熱で上がっており、さらに、フル充電に近づいていくため、電池が燃えやすい状態になります。また、発火に至る閾値は、材料によって決まっており、だいたいフル充電の場合、130℃~200℃以上(NCAやNMCの正極の場合)となります。

②電池の負極が膨張するため
フル充電にしたときに、電池の特に負極は体積膨張します。電池残量ゼロから、フル充電にした際に、負極材料にもよりますが、だいたい1.1倍~1.5倍、負極が膨らみます。黒鉛だけの場合は、1.1倍程度ですが、高容量タイプは負極に体積膨張率が大きいSi材料を混合していることが多く、負極の体積膨張はさらに大きくなります。このため、例えば、電池の内部に金属異物があったり、電池を落として電池内部の金属物がむき出しになっている場合に、フル充電を行うと、負極が膨張してパンパンになり、その圧力でセパレータを金属物が貫通してしまい、内部短絡により発火してしまいます。

③Liが析出しやすくなるため
フル充電に近づくと、正極内のリチウムイオンの大部分は、負極側に移動することになります。基本的には負極のほうがリチウムを受け入れられる器として大きいので、通常の充電ではLiは析出しません。しかし、電池が急激に劣化してきたり、電池内に金属異物あったりする場合は、負極側でLiが析出する場合があります。このLiの析出は、数回程度では直接的に発火要因につながりにくいですが、繰り返しLiが析出されてくると、針状(デンドライト)に成長してくるため、微小な内部短絡が起こったり、電池内部が変形で折れ曲がったりなど、不安全な状態になります。このため、それに気づかずに充放電を繰り返していくと、時限爆弾のように、突如発火してしまう場合があります。このパターンは、充電時間が極端に長くなったり、充電してもすぐに電池残量がなくなったりするなど、事前におかしな挙動としてみられることもたまにあります。

安全な携帯扇風機の使い方について

・誤って携帯扇風機を落下させてしまった場合は注意

携帯扇風機を誤って落下させてしまった場合、商品に凹みや傷がみられるときは、使用しないほうが無難です。一応、一定の高さの落下に対する安全性を国際基準や電安法で担保していますが、それはあくまで、落下したときに燃えるか燃えないかの試験となります。つまり、落下で電池に気づかない程度のダメージが蓄積した際に、何度も充放電したときの安全性については担保されていないということになります。

特に、商品に凹みや傷がみられる場合は、それが電池にも衝撃や変形が伝わってしまっている可能性もあるため、買い替えなどを考えた方が安全かと思います。

・炎天下に長時間放置しない

携帯扇風機は、基本、炎天下の夏場の使用も想定しているため難しいところですが、たとえば、アスファルトや机の上など、直射日光を浴びるところで放置しないなど、気を付ける必要があります。基本的に、電池に使われている電解質は、60~70℃を超えたあたりから、分解されやすくなる組成が含まれていることが多いです。つまり、電池が大きく劣化してしまったり、その電池の劣化からくるその他の不安全事象につながるリスクが増えるため、スマホやモバイルバッテリーと同様、直射日光の当たる場所に長時間放置しないように気を付けることが大事です。

・フル充電後の使用時間が、購入時の6~7割以下(悪くても5割以下)となった場合は、買い替える

電池は使えば使うほど劣化していきます。電池の劣化パターンはたくさんありますが、不安全に繋がるものがいくつかあります。1つは、電解質の分解です。電解質が分解されると、正極と負極の間でリチウムイオンのキャッチボールがしにくくなり、場合によっては局所的にLiが析出しやすくなり不安全を引き起こすリスクに繋がります。2つめは、正極や負極の膨化です。特に負極は充放電を繰り返すたびに、徐々に膨化していきます。これにより、電池が膨らんでいき、内部で電極が折れ曲がったりするなど、内部短絡が生じるリスクが増えていきます。

つまり、電池が劣化してくると、不安全なリスクが高まるため、早めに買い替えることをオススメします。電池設計をしている者としては、 使用時間が購入時 の6~7割くらいになってきたら交換してほしいところです。色々な電池メーカーの電池を分解したことがありますが、使用時間が購入時の5割以下になっているものは、極板が変形したり電解質が分解などでLi析出しやすくなっていたり、少し不安全になってきている状態が見受けられます。早めの買い替えを推奨します。

・フル充電したにもかかわらず、数日放置すると電池が空になる場合は、すぐに使用をやめる

フル充電した後、充電ケーブルから取り外し、数日間放置していただけで、電池が空になっている場合は、すぐに使用をやめてください。基本的に、フル充電して、数カ月間、室温で放置したとしても、80~90%以上の電池容量は残っています(自己放電で電池内部で極小電流が流れるだけなので)。数日で電池が空になるということは、内部短絡(ショート)している可能性が高いです。この場合、非常に危ない状態なので、すぐに使用をやめることが安全面で重要です。

携帯扇風機の選び方

電池含めた安全面から携帯扇風機を選ぶポイントを解説いたします。

あくまで、発火や爆発のリスクに対しての個人的な技術者目線での見解となりますが、ご参考いただけたらと思います。



■携帯扇風機を選ぶポイント (電池含めた安全面から)

①電池容量に対して扇風機価格が安すぎないもの
 高容量なリチウムイオンを用いた電池は基本的に正極にレアメタルを使っているため高価です。しかし、高容量な割に、携帯扇風機の価格が安すぎる場合は注意が必要です。携帯扇風機が、5000mAhなのに2000円代、9000mAhなのに3000円代などのときは、安価な電池を使用している場合があります。安価な電池が危険とは直接的には言えないですが、安いということは、製造における品質面など、検査管理にお金をかけていない場合があります。つまり、金属異物などの混入リスクが高くなり、電池が発火する可能性がある商品を手にしてしまう確率がわずかに上がるということは言えると思います。

②白色の携帯扇風機
 携帯扇風機は直射日光があたる状況で使うことも想定する必要があります。デザインは、白や黒の商品が多いですが、白色は光の反射率が高く温度も上がりにくいため、電池の劣化や発火リスクを下げることができます。真夏の炎天下においては、3~7℃くらいは、白色のほうが黒色よりも温度が上がりにくいと言われているので、携帯扇風機としては白色のほうが電池にとっては良いことになります。

③知っている大手メーカー
 携帯扇風機は低価格な商品であるため、小さいベンチャー企業や中国メーカーの商品が多いです。 小さいベンチャー企業や中国メーカーの品質が悪いということは直接的には証明できませんが、例えば、大手日本メーカーの場合は、仮に市場不具合(インシデント)が発生したとしても、ユーザーへの呼びかけ、商品自主回収、損害賠償など、きちっとした対応をしてくれると思います。特にリチウムイオンを用いた電池を使った商品は、このようなアフターケアも考えて商品選びをしても良いと、個人的には考えています。

※ 補足:PSE(電気用品安全法) マークがあるから安全なのか?
よく、電池の安全性をいうために、PSE(電気用品安全法)マークがあります。PSEは、リチウムイオンを用いた電池の安全規格としても近年義務化されていますが、PSEマークがあるからと言って必ずしも安全とは限りません。PSEは、電池を開発する段階で、各電池メーカーが自己試験を行い、登録するものであり、その電池が一定基準以上の安全設計であることを保証していることを意味します。注意するのは、市場にでまわる電池のすべてを安全だと検査しているものではありませんので、金属異物混入などの品質に関わるイレギュラーな観点(品質面)や、電池を長期間使用した際の不具合耐性(信頼性)は、考慮されていません。また、リチウムイオンを用いた電池は、PSEの取得義務は必ず必要なので、PSEがついていてあたりまえであり、安全基準としての判断にはなりません。品質面や信頼性は、電池バッテリーの性能には見えないものであり、電池価格や市場実績から判断するしかないのが現状です。例えば、モバイル市場での電池発火は、日本製に比べて中国製は4倍高いという記事もあります。このような実績をふまえて、安全を考える必要がありますが、あくまで、それぞれの電池メーカーに依存するため、中国メーカーがすべて安全規格が低いわけでもありません。総合的に考えて、電池価格が安すぎるのは、工場品質や、電池材料や設計面のケアが行き届きにくくなるので、不安全な電池を出荷してしまう確率(PPMオーダーと思いますが)が高くなるトレードオフな関係となるのが一般的と言えます。


上記①~③のポイントを満たす商品を調べてみたところ下記の3つとなりました。

携帯扇風機の購入を検討されている方は、ぜひ、ご参考ください。

さいごに

今回は携帯扇風機の危険性(発火/爆発)について、電池技術者として、電池の安全面から解説させていただきました。特に安全な使い方のところは、ケガなく安全に携帯扇風機を使う上で、大事なことなので実践いただけると幸いです。

★あと、携帯扇風機は私も購入しましたが、顔や首元に風を直接かけられるので、夏場にはあると便利でうれしいアイテムだと思います。今回は、携帯扇風機の安全面からのオススメ商品を紹介いたしましたが、性能面からもオススメ商品を紹介していますので、ご興味のある方は下記記事もご参考ください↓

★スマートフォンにおける発熱のリスクについても、解説しています。ぜひ、ご一読ください↓
【スマホ 熱い】発火危険性や現象を電池技術者が解説します! (miya-mitsu.com)

タイトルとURLをコピーしました